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書籍(参考資料)
「遥かなる俊翼 日本軍用機空戦記録」
基本情報
「遥かなる俊翼 日本軍用機空戦記録」
著者:渡辺 洋二 出版社:文藝春秋 春秋文庫 定価(税別):514円(2002年) 初版発行:2002年7月10日 日本図書コード ISBN-10:4167249111 ISBN-13:9784167249113
書籍概要
大東亜戦争に於ける、日本陸海軍機関連の戦記を纏めた短編集である。
本書の著者である渡辺洋二氏は、長年にわたって大東亜戦争中の航空戦史を研究しており、資料収集はもとより、多くの元軍関係者に取材を行ってきた。そして、その取材内容を主体として資料に裏付けられた航空戦史を多数執筆しており、その内容の詳細さと正確さには定評がある。また、当時の作戦や航空機に関しての評論も、浅薄な結果論や数値などによらず、長年の経験による的確な評論を行い、必要ならば辛辣な批判も辞さない姿勢は、著者の航空戦史にかける並々ならぬ熱意が伺える。 尚、本書以外にも、航空戦史の短編集多数が執筆されている。
本書は、それぞれ独立した11の戦記から成っている。 1番目は、陸軍の戦闘機操縦者(パイロット)であった南郷茂男中佐(戦死時大尉)に焦点が当てられている。南郷大尉は、昭和18年(1943年)中頃から昭和19年(1944年)1月23日まので約半年間、東部ニューギニア方面に於いて、飛行第五十九戦隊の先任将校として米陸軍航空隊と死闘を演じた。南郷大尉は、自ら率先して出動すると共に部下に対する面倒見もよく、人格者として知られていた。「ニューギニアは南郷でもつ」とまで言われた人物の奮戦の記録が綴られている。 2番目は、昭和18年(1943年)12月に入隊した第十四期飛行専修予備学生・第一期飛行専修予備生徒に焦点が当てられている。十四期予備学生・一期予備生徒には、昭和18年(1943年)12月に計5500名が入隊、その殆どが学徒出陣による大学生であった。本編では、元十四期予備学生の中で水上機専修となり、その後、「零式観測機」などの水上機による特攻を目指して訓練を行っていた隊員達の姿が描かれている。その中では、当時の中間機練習教程の様子や、特攻作戦に向けた訓練の様子、十三期予学や兵学校出身者との関係なども描写されている。 3番目は、陸軍の飛行第二百四十四戦隊に焦点が当てられている。二百四十四戦隊は関東周辺の防空を主任務とし、液冷エンジン搭載の「三式戦闘機『飛燕』」を装備していた。本編では、昭和19年(1944年)11月から昭和20年(1945年)5月までの半年間に渡る二百四十四戦隊の戦歴が紹介されている。その中では、「飛燕」による米軍爆撃機「B-29」への体当たり攻撃や、米軍戦闘機「F6F]「P-51」との戦闘など、大東亜戦争末期の本土に於ける「飛燕」の死闘が描かれている。 4番目は、海軍の第三四三航空隊に焦点が当てられている。三四三空(2代目)は、大東亜戦争末期、「紫電二一型(紫電改)」を装備した制空戦闘機隊として誕生した。その背景には、海軍航空の実力者であった源隊田実大佐の存在があった。本編では、三四三空の開隊に至るいきさつ、装備機材「紫電改」、部隊の編成や搭乗員・整備員、について紹介されている。また、昭和20年(1945年)3月19日の初陣から終戦に至るまでの半年間の戦歴も詳細に記載されている。尚、三四三空の飛行隊長であった菅野直大尉にに関して、著者の単行本である「重い飛行機雲」で紹介されている。 5番目は、水上戦闘機「強風」に焦点が当てられ、、日本本土に於ける「強風」の戦歴が紹介されている。その中では、米軍爆撃機「B-29」の邀撃、米海軍艦上戦闘機「F6F」との空中戦、沖縄諸島へ向かう偵察機の護衛、更には「強風」による夜間銃爆撃部隊の編成など、一般にはあまり知られていない「強風」の戦歴が詳細に記載されており、非常に興味深い。本編は、著者の単行本である「大空の攻防戦」に「本土上空「強風」行動記録」として初収録されている。 6番目は、陸軍の少年飛行兵第十三期生の元戦闘機操縦者(パイロット)に焦点が当てられている。少年飛行兵(少飛)制度は昭和8年(1933年)に設けられ、陸軍航空に於ける下士官要員を多数輩出した。特に、昭和16年(1941年)入隊の十二期・十三期は大東亜戦争末期に次々と実戦部隊に配属された。本章では、「二式戦闘機『鍾馗』」を装備した飛行第七十戦隊に配属された3名の操縦者の大東亜戦争末期に於ける戦歴が紹介され、少飛や練成飛行隊での訓練の様子、部隊での勤務の様子などが描かれている。 7番目は、海軍の偵察機「彩雲」に焦点が当てられている。「彩雲」は偵察専用の機体として昭和19年(1944年)9月に正式採用された。本編では、「彩雲」を装備した部隊のが紹介され、その中では、偵察飛行隊の多くが開隊した神奈川県の木更津基地が「彩雲」に縁の深い基地としてた度々登場する。また、大東亜戦争末期にフィリピン諸島やトラック諸島などに於いて行われた「彩雲」による偵察の様子が描かれている。また、章末には「彩雲」を装備した特設飛行隊の変遷が記載されている。 8番目は、海軍の局地戦闘機「雷電」に焦点が当てられている。「雷電」は昭和18年(1943年)秋に正式採用された対爆撃機用の重武装迎撃機であったが、操縦特性が不安定で、扱いには技量を要した。本章では、昭和18年(1943年)春に入隊した乙種飛行予科練習生(特)すなわち特乙一期生の中で、第三〇二航空隊に配属され、「雷電」で米軍爆撃機「B-29」を撃墜した元搭乗員の戦歴が描かれている。尚、海軍唯一の防空部隊であった三〇二空に関しては、著者の単行本である「重い飛行機雲」でも紹介されている。 9番目は、陸軍戦闘機操縦者(パイロット)を養成する訓練部隊の1つであった第一練成飛行隊に焦点が当てられている。第一練成飛行隊は、「四式戦闘機『疾風』」を装備し、基礎教育を終えた若年操縦者に実用機の訓練を行うと共に、空襲の際には防空の任務も担っていた。昭和19年(1944年)3月下旬から昭和20年(1945年)8月の終戦に至る約1年間に渡る第一練成飛行隊の活動が記録されている。また、序盤では当時の陸軍航空に於ける訓練組織の概要も説明されている。本編は、著者の単行本である「大空の攻防戦」に「教え、戦った四式戦部隊」として初収録されている。 10番目は、昭和19年(1944年)1月17日、ニューブリテン島ラバウル上空で行われた日本海軍の「零戦」と米軍機との一大空中戦に焦点を当てている。この日の空中戦は「零戦」の完勝と言えるべき戦闘であり、その詳細が紹介されている。また、序盤には、昭和17年(1942年)初めから昭和19年(1944年)2月に至る約2年間、ラバウルに展開した日本海軍航空隊の活動の概要が説明されている。本編は、著者の単行本である「大空の攻防戦」に同タイトルで初収録されている。 11番目は、主に戦前の軍用機開発で行われていた競争試作に焦点が当てられている。軍が民間に対して新型機を発注する際、複数の航空機会社が製作した試作機を比較してその何れかを採用する事を競争試作という。本章では、このシステムに関する説明とそのメリットデメリットに関する考察が行われている。その後、競争試作は次第に行われなくなったが、大東亜戦争中に登場した陸海軍の戦闘機の幾つかを比較する事で、競争試作の意義を考える試みが成されている。本章で比較されている戦闘機は、制空戦闘機としては、陸軍の「四式戦闘機『疾風』」と「五式戦闘機」、海軍の「紫電改」と「烈風」が登場し、迎撃戦闘機としては陸軍の「キ四四(二式戦闘機『鍾馗』)」と「キ六〇」、海軍の「雷電」と「紫電」が登場している。
本書には、日本海軍関連が6つ、日本陸軍関連が4つ、航空機一般に関するものが1つ、計11の短編戦記が収録されている。何れの戦記も詳細な調査と関係者への取材を元に書かれており、戦史資料としての価値も高い。 本書は、大東亜戦争に於ける日本陸海軍の航空戦史を知る上では欠かせない1冊であろう。
目次
ニューギニアを支えた男・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9P 本土上空に空なし ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29P 切り裂くツバメ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81P 最後の切り札・剣部隊 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103P 去りゆく水戦 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・127P 受傷をこえて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・151P 偵察機は木更津を発つ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・183P 若さの戦果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・237P 教え、かつ戦った訓練部隊 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・253P ラバウル上空の完全勝利 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・291P 日本戦闘機、身内のライバルを比較する・・・・・・・329P あとがき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・354P
関連書籍
「ラバウル海軍航空隊」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ニューギニアを支えた男 9P) (ラバウル上空の完全勝利 291P)
「大空の攻防戦」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(去りゆく水戦 127P) (教え、かつ戦った訓練部隊 253P) (ラバウル上空の完全勝利 291P) 「重い飛行機雲 太平洋戦争日本空軍秘話」・・・・・・・・・・・(最後の切り札・剣部隊 103P)・・・・・・・・・・・第三四三海軍航空隊 (若さの戦果 237P)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第三〇二海軍航空隊 「太平洋戦争航空史話(下)」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(最後の切り札・剣部隊 103P)・・・・・・・・・・・第三四三海軍航空隊 (偵察機は木更津を発つ 183P)・・・・・・・・・・艦上偵察機「彩雲」
「戦闘機「飛燕」 技術開発の戦い」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(切り裂くツバメ 81P) 「決戦機 疾風 航空技術の戦い」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(教え、かつ戦った訓練部隊 253P) (日本戦闘機、身内のライバルを比較する 329P)
関連項目
「デイトン(アメリカ中西部)」>> 「国立米空軍博物館」>>「紫電改」
「零式艦上戦闘機」
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